旅立つ人よ
このところ、身近な人の訃報が相次いだ。
ゆきつぐさん、かつみさん・・・・
若い日の彼らとの思い出が、心のスクリーンに浮かび出る。
そして、今日のニュース、
八千草薫さん逝く、と。
昔むかし、槍の頂上を目指して、上高地から横尾へ向かう7人の山仲間、
明神の河原に重いキスリングを降ろして一休み、
前穂を見上げて感無量、誰かが口ずさんだ山の歌に、
何人かが、ヨーデルのまねごとで、声を合せる、
と、
通りかかった男女二人連れ、鄙マレのメッチェンと、背の高いこれもいい男、
足を止めて我々の歌に聞き入るような、また、穂高を見上げるような・・・
あ、八千草薫だ、
そうだ、谷口千吉だ!
それと気づいた山男たちが、下手なヨーデルの声を一段と張り上げる。
横尾の出合の、その夜のテント、
「貴様のへたなヨーデル、八千草薫が聴いてたぞ!」
「谷口監督の靴、すごかったな、おれの靴の皮と大違いだ」
屏風岩を見上げながら語り合った、62年前の雪の梓川。
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