いつかあの頂へ

bufoの日記

見上げてごらん 山の星を


6月10日(WED)


 思い立って車に乗る。
梅雨ぞら気配だが、新緑の小道を、しとしとぴっちゃんもいいではないか。


温泉に入ってかみさんぎっくり腰を治す
雪山を見上げてbufoはボケを防止する

一挙両得、一石二鳥
のんびりしてそうで、ご利益多いミニドライブ。


 上高地へ行こう!


 8時出発。中央高速から木曽路、薮原から奈川、沢渡でバスに乗換え。
タクシーの運ちゃんが寄ってきた。
「バスは1200円、乗り合い4人で1000円にするよ」
乗用車締め出しはタクシーの為なんか、何じゃこらと思ったが、安くて早い誘惑には勝てない。
世の中こんなもんじゃ。


 三河から来ました、という兄ちゃん2人は、小梨平バス停に着くやTシャツ姿で川原に向かって走っていった。
「あのこたち、美容師さんよ、きっと」
気軽、身軽な日帰りドライブなのだろう。



 河童橋で、人ごみを避けて定番記念写真。



 実は今朝出るとき西糸屋さんに電話すると、
「今日明日団体さんが入ってまして、すみません」
で、ならばと徳澤園にTEL
「はい、ありがとうございます」


 ニリンソウの咲き乱れる新緑の小道を、
明神を素どうり、
4時半、徳澤着。


 なんとまぁ、立派になったことよ。
帝国ホテルに負けないような堂々たるたたずまいである。 



 夕食前に散歩。

 横尾への道をそれて川原へ出ると、なんと頑丈な橋がかかっている。
牛小屋が・・山小屋になり・・ホテルになり・・・
その道筋にこの橋が大いに貢献している、らしい。
さっき徳澤園の前に車が5台停まっているのを見て違和感を覚えたのだが、
あれは従業員の通勤用だろうか。
むかし、橋のむこう右岸に国立公園管理用に造成されたという道を、黒塗りの乗用車がすっ飛んでいくのを見たことがあったっけ。

 世の中そんなもんじゃ。



 徳澤園の居心地は満点である。

 団体さんを含め満員の食堂でいただいた食事も美味しかった。
若い従業員たちの接客もいい。
 若女将の表情に笑顔がないのがちょっとね、
よくあることで、身内同士の会話ではニコニコしてるが、
客を前にするときっとなる、
でもこれは、若さと未経験、緊張からくること、
いずれは堂々たる女将になるだろう、
「センスのいい人ね」とかみさん。



 サロンの本棚にバッカス先輩に関する本や資料が多い。
そう、ここは「氷壁の宿」
はじめて手にした彼の遺著『ザイルに導かれて』を読みふける。



6月11日(THU)


 朝食前に、新村橋へと散歩に出る。
残念ながら、奥叉から上は雲の中。
だが周りの広々とした渓の新緑は最高である。





 山小屋だからチェックアウトは8時である。
明神池による。
岩魚を2匹見つけた。
寂しくなったものだ。


 


 道端の池にカルガモ君を見ながら、持参の録音機で小鳥の声を録っていると、
いきなりイヤホンに車の爆音、
トラックが2台、あっという間に通り過ぎる。
え! トラック!!
この道で車に会うなんて!!!

どうやらおわいの回集車らしい。


  徳澤へはあの橋で。


  明神へはこの道で。


  もしかして横尾、涸沢まで?


  上高地も車社会に飲み込まれたんだ。


 20年ほど前、この道をやはり徳澤へはいったとき、
かつて重いキスを背負って上り下りしたこの山道が
ブルドーザーで登り降りを均され、広げられ、
山側の傾斜が削られて、大木の根っこが無残に露出していた。


あのとき、bufoはなんと思い違いをしていた。
こうやって一見不必要、不自然だと思うような工事を決行するのは、
それなりのわけがあるからだろう、
その訳とは、きっと登山者の安全を守るためだろう・・・・・・

 今、トラックを見送って思い知った。

  利潤の追求は、自然保護に優先する。

ま、世の中そんなもんじゃて。



 小梨平へ着いても、雲が晴れない。


帝国ホテルでカレーをいただきながら決めた。


帰ろう。



 澤渡の駐車場、バスを降りると薄日が差している。
「やっと晴れてきました」
おっちゃんが笑っている。


 bufoの旅に進路変更は日常茶飯である。
白骨温泉につかって、乗鞍高原を走って帰ろう。


 鈴蘭の交差点の観光案内所へ寄る。
「このお隣に日帰り温泉がありますでしょ、
白骨温泉と湯が似てていいですよ」


 美女のお勧めにしたがって入った「湯けむり館」
白濁のお湯はよかった。


 もう一度案内所に入る。
「このあたりペンションは一杯ありますが、
景色がよくて、手ごろな宿はありませんか」
「この上の、国民休暇村はいかがですか」
「いいですね、おねぇさん、部屋をとってくれます?」


 お勧めにしたがって国民休暇村乗鞍高原へ入るころにはすっかり晴れ上がっている。



 この夜、うれしい出会いがあった。
顛末はこうだ。


 露天風呂で、横にいた男性に声をかけた。
「星が見事ですねぇ」
 え、と振り向いて、すぐ反応が返ってきた。
「こっちの向きがよく見えますよ」


 どちらから、名古屋です、
わたしは東京です、
名乗りあって二人でしばらく夜空を見上げる。


 部屋へ帰ろうと玄関ロビーに差し掛かると、
くだんの男性が、下駄を履いて出ようとしている。
さてこそ、と後に続く。


「余計な照明が邪魔ですなぁ」
「いかがです、車を出して、ちょっと上へ行ってみませんか」


 真っ暗なエコーラインを走りながらお互い自己紹介をする。
「Kです、3月に自営の精密機械工場をやめまして、これからどういう人生を、と考えながら、友人と釣りに来ました。
こうやってウイークデイに遊びに出るのは初めてです」


「Bufoともうします、時々好きな山を眺めにドライブに出ます」
「え、私も学生時代山岳部でした、
このところ、釣りにはまってますが。
 ただ、この渓流釣りはきつくて、危険もありますしね、
老後の趣味には、ねぇ」


「いいご趣味ですよ。
わたしも、若き日の黒部川遡行で釣った岩魚よもういちど、ってんで
15年ほど前に、職場の先輩で川釣りの名人を、
黒部東沢から槍まで引っ張りあげたことがあります。
 釣るには釣ったんですが、先輩足を痛めて大変そうでした」
「そりゃかわいそうですよ」


 乗用車ストップのゲートのある広場で車を降りて空を見上げる。


満天の星空。
降るような星屑。


 トランクにあったダウンを着込んで、しばらく夜の中に立ち尽くす。


「いいですねぇ
おかげさまで なんともいい夜になりました」
「ほんとうに
人生、こんな夜も、こんな出会いもいいですなぁ」

 真っ赤なお月さんが昇るのを見て、車に乗った。



 翌朝、レストランでKさんは住所を記した紙をくれた。
そこにこんな添え書きがあった。
「東京へお出かけの節は、お会いしたいです」


 後日談になるが、
パソコンのYAHOO検索にKさんが出た。
「おい、KさんがM高校のホームページにでてるよ」
「え!じゃぁわたしの先輩だ」


 出会いの面白さ、素晴らしさを体感した高原の一夜であった。




6月12日(FRI)

 快晴!

 ほぼ満員のレストランで、
朝粥を戴きながら見上げれば、
白樺林の向こうに、残雪がまぶしい乗鞍の峰々!

よし!あそこへ登ろう。


 昨夜Kさんと星空を見て感激した「三本滝」駐車場でバスに乗り換える。
ここは標高1900M

むかし車で登ったことのあるエコーラインのくねくねを小1時間。
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肩の小屋口」2600M  バスはここまで。

 大雪渓で10人ぐらいのスキーヤーが点々と見える。


 ここからは、エコーラインを歩いて畳平へ。




畳平
飛騨側からはここまでバスが入る。


乗鞍岳の一峰
 『魔王岳』2763M




西に白山、東に北岳駒仙丈、八つ浅間・・・


 「こんにちは」とにぎやかに登ってきた高校生たち、
『旭丘』だという。
こんなところで同郷の若者に出会うのはうれしくて声をかける。
「きみたち山の名前わかるかい。
ホラ、槍ヶ岳穂高岳
あの下が上高地。」


 名古屋で並ぶ物ない秀才たち、ニコニコ我慢して聞いている。







12時に乗鞍を発てば、5時には名古屋へ帰れるだろうとふんだのはおおきに間違いであった。

男爵コーラス」の練習に遅刻。
冷や汗をかきながら歌った
モーツアルト『Ave Verum Corpus』はむつかしい。




 夜、帰宅すると産地直送、美味しいタカミメロンが着いていた。
10日着で発送してくれたのが、うっかりドライブに出かけてしまって今日になってしまったのだ。
2〜3日トラックの中で寝ていた間に、これがなんとちょうど食べごろ。
1時間冷蔵庫で休ませると、ぐんと甘みが増す。
 おいしい!
ありがとう、しんちゃん。