いつかあの頂へ

bufoの日記

春に逝く

 叔母の訃を知ったのはきのう夕方、落合公園で大勢の人に混じって花見をしているときだった。


 遅くに南伊勢の実家に着いた。


 今日は、快晴。ふるさとの海は雲ひとつない青空と溶け合って穏やかである。
 暖かい浜辺の道をゆくと、旧小学校の校庭の桜が満開だ。



 海に沿って細長い家並みの、一番東に叔母の家はある。
北に、目の前に五ヶ所湾の海が春の陽をうけて広がる。
南の、うしろの山の斜面に沿って家並みが扇を広げたように並んでいる。
その一番上にお寺の本堂が見え、同じ高さの山の東の端に墓地があり、中に真新しい木の墓標も小さく見える。


 「かぁーっ!」


 海運寺のおっさんの声が山に海にこだまする。


 92年の人生の軌跡、生まれ育った浦に心を残して旅立つ叔母の、最期の姿に合掌する。
「おばやんは、ほんにええ日ぃにいたなぁ」
「なぁ、ほになぁ。桜もこんに満開で、なぁ」 
 町の人たちの送る言葉も穏やかである。





 帰途、伊勢の宮川堤にさしかかると、満開の桜の向こうに真っ赤な夕陽が沈んだ。
 いまごろ、ひさしぶりに叔母を迎えたあねといもうと、あの三姉妹がどこかで手をとり合って微笑んでいるような、そんな気がする春の夕暮れである。