いつかあの頂へ

bufoの日記

夕映えの雲


 井口夫人にお送りいただいた『夕映えの雲』上中下三巻、昨夜読了。
「のこりて字あり」に続く、三宅千代さんの著作。


 大作である。


 お借りした三冊を机上に積んで当初なかなかページが進まなかったが、取り付きの2、3ピッチはなんとなく調子が出ないのがBUFOのいつものペース。
 読み進むうちに千代女史の筆力に引き込まれ、ここ数日一気に読み終わった。


 主人公の人生を味わい深い筆致で描く内容はもちろんフィクションの態はとるが、われわれ名古屋人であればたれ知らぬもののない名医とその一族が、巻末の登場人物関係図を見比べながら読むうちに、ひとりひとり紙面に現れてピントを結んでくる。歌人である著者の観察眼、表現力のなせる業である。


 後半の舞台である眼科三宅病院にはBufoも先日検査入院した。落ち着いた物腰で院内を歩いておられた千代女史の姿と、前半に描かれる幼い日の主人公の境涯とのギャップにはちょっと驚かされるが、夫となる人と出会い、「のこりて字あり」の戦中戦後を経て、病院新館落成と前後して夫の発病、壮絶な看病のうちに看取るひとびとの描写を読むうちに、著者千代女史の人生がBufoの脳中に一個の人格を持って立ち現れている。
 
 われと同時代に、ほぼ同じ地に、かくなる人格が存在したことに、深い感銘を受けつつ読了した。
 
 若き日、三宅院長の病床に付きっ切りで看病したという井口夫妻に葉書を書く。
「ありがとう。涙のうちに読み終わりました」